症例紹介

Case

2025/4/8

腫瘍科

MIX犬の肝細胞癌の一例犬の肝葉切除について

肝臓は沈黙の臓器といわれています。
肝臓は病気になってもすぐに症状が現れず、病態が進行してから血液検査などで発覚することが多いです。
特に症状がない時の犬の健康診断などで、肝臓に問題があると指摘されたことのある飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
突然心当たりのない病気が発覚すると心配ですよね。

「肝臓の病気と言われても、どんなものがあるのか想像もつかない。」
「手術したら治るの?」

そう思われる飼い主様もいらっしゃると思います。
肝臓の病気には様々なものがありますが、近年は犬の長寿化に伴って肝臓腫瘍が増えています。

今回は肝臓に腫瘍ができた場合などに行う肝葉切除という手術について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、肝葉切除についての理解を深めていただければ幸いです。

犬の肝葉切除とは

犬の肝葉切除とは、腫瘍などができてしまった肝臓の一部を切除する手術です。
肝臓には太い血管がいくつも通っているため肝葉切除はリスクが高い手術になります。
ここからは肝葉切除がどんなときに必要か、どんなときにリスクが高くなるのかを詳しく解説いたします。

肝葉切除はどんなときに必要か

犬で肝葉切除が必要になるのは

  • 肝臓腫瘍
  • 肝膿瘍
  • 外傷

などのときです。
近年は犬の長寿化に伴って肝臓腫瘍での肝葉切除が増えています。
肝臓腫瘍には原発性と転移性があります。
転移性肝臓腫瘍は肝臓以外にできた腫瘍が肝臓に転移したもので、原発性肝臓腫瘍は肝臓自体に腫瘍が発生したものです。
このうち肝葉切除の適応となるのは原発性肝臓腫瘍です。
肝臓に膿が溜まってしまう肝膿瘍や、事故などの外傷でも肝葉切除が行われることがあります。

肝葉切除はどんな時に可能か

肝葉切除は上記の病態の時に必ずしもできる手術とはいえません。
犬の肝臓は6つの葉に分かれていて、それぞれの葉のことを肝葉といいます。
肝葉切除では6つの肝葉のうち4葉以上が残せる状態であれば手術の適応になると言われています。
原発性肝臓腫瘍であっても、全ての肝葉に腫瘍がある場合は手術の適応にはなりません。
肝膿瘍や外傷でも肝臓腫瘍と同様に、肝臓をどのくらい温存できるかによって手術の可否が決まります。

肝葉切除はどんなときにリスクが高くなるか 

肝葉切除での最大のリスクは出血のリスクです。
肝臓には太い血管がいくつも通っているため、肝葉切除するためにはそれらの血管を傷つけないように処理しなければなりません。
肝葉切除では血管と肝葉との位置関係で手術のリスクの程度が変わります。
肝臓の左葉や、肝葉の辺縁にある腫瘍は比較的安全に切除できるといわれています。
これは切除する部位と太い血管との距離が遠いためです。
逆に肝臓の中央部分や肝臓の基部にある病変は血管からの距離が近いため、肝葉切除のリスクが高くなります。

実際の症例

ここからは実際に当院で肝葉切除を行った症例をご紹介します。

症例は6歳2ヶ月、去勢済みの雄のMIX犬です。
水をよく飲み、たくさん排尿をするということで受診されました。
血液検査をすると、肝数値とCRPの上昇がみとめられました。
CRPとは炎症のマーカーのことです。
超音波検査を行うと肝臓の左側の区域に7cm程の腫瘤がありました。

飼い主様と相談の上、この検査から2日後に肝葉切除術にて腫瘤の摘出を行いました。
写真の通り肝臓に腫瘤があり、その腫瘤がお腹の中の広い範囲を占拠していることがわかります。

肝葉切除前の肝臓腫瘤

今回の腫瘤は肝臓の左側の遠位から発生している腫瘤でした。
そのため完全に切除することができました。
腫瘤を切除したあとは下の写真のように綺麗な肝臓だけがお腹の中に残ります。

肝葉切除後の腹腔内

肝葉切除によって取り出した腫瘤は下の写真の通りです。

摘出した犬の肝臓の腫瘤このように大きな腫瘤が犬のお腹の中にあったかと思うと少し怖いですよね。
この組織を病理検査に出して診断を待ちます。
術後の経過は良く、3週間経った時点でも元気に過ごしていました。

しかし摘出した腫瘍は「肝細胞癌」という悪性腫瘍と診断されたため、今後は再発がないかしっかり定期チェックをしていく必要があります。

まとめ

今回は犬の肝葉切除について解説しました。
肝臓にできる腫瘍は発見が遅れる傾向にありますが、悪性腫瘍は大きくなる速度が速いです。
腫瘍が大きくなりすぎると温存できる肝臓の範囲が狭くなってしまい、手術が困難になることもあります。
また、腹腔内出血などのリスクも高まります。
肝臓の腫瘍は高齢でかかる病気だからこそ、少しでも犬の負担が軽くなるように早期の手術がおすすめです。
特に中高齢の犬で

  • 元気や食欲の低下
  • 嘔吐
  • 下痢
  • お腹が膨れる

などの症状がみられたら、肝臓腫瘍の可能性も考えて動物病院にご相談ください。

当院は腫瘍科に力をいれている動物病院です。
犬の腫瘍についてお困りのことがありましたら、ぜひ一度当院までご相談ください。

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