症例紹介

Case

2024/12/17

感染症科

猫のFIPの一例当院で治療し寛解した症例

猫を飼っている皆様は、FIPという病気を聞いたことはありますか?
近年、猫の飼い主の皆様の間でも情報交換が積極的に行われるようになり、以前より有名になった病気の一つです。
FIPについて、

  • コロナウイルスが関係している
  • 治療方法がないと聞いたことがある
  • FIPになると高率で亡くなってしまう

というようなイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。
確かに少し前まではFIPは治療法がなく、子猫が急激に弱って亡くなってしまうことの多い疾患でした。
しかし現在は積極的に研究が進んでいて、治らない病気ではなくなってきました。

当院で飼っている猫、ホタテくんも実はFIPに感染したことがあり、治療を行なった猫です。今回は、そんなFIPについて解説いたします。こちらを見ている服を着ている猫
この記事を最後まで読んでいただき、FIPに関する知識をアップデートさせましょう。

FIPってどんな病気?

FIPとは、コロナウイルスによる感染症で、猫伝染性腹膜炎とも呼ばれています。
コロナウイルスと聞くと、COVID-19が浮かぶ方が多いのではないでしょうか。
同じコロナウイルスでもCOVID-19とは型が違い、FIPを引き起こすコロナウイルスは人には感染しません。
このウイルスは猫に感染するとFIPを引き起こすというわけではありません。
猫に感染していてもそれだけではFIPを発症しないことも多いです。
FIPは、猫の体内でウイルスが遺伝子変異により病原性の高いウイルスに突然変異を起こすことで発症します。
ウイルスの突然変異の原因は、猫の免疫力の低下です。
ペットホテルや去勢手術など些細な日常のストレスにより起こることが多く、これを防ぐことは困難です。
FIPは特に生後6ヶ月〜2歳までの子猫で発症し、メスの猫よりオスの方が多いと言われています。

症状

FIPの初期症状は一般的に

  • 発熱
  • 元気食欲の低下
  • 体重減少

です。
これらはどれもはっきりした症状ではないためわかりにくいですよね。
その他の症状として、FIPにはウェットタイプとドライタイプの2つの型があります。

ウェットタイプ

ウェットタイプでは、体のいろいろなところに液体が溜まります。
この液体は炎症により発生した滲出液です。

多い症状は腹水ですが、胸水や心膜に液が溜まる事もあります。
胸に水が溜まると、呼吸がしづらくなって、呼吸促迫や開口呼吸といった症状も出るようになります。

ドライタイプ

ウェットタイプに対し全身性に起こった炎症により肉芽腫というできものを作るようになるのがドライタイプです。

眼に肉芽腫が発生した場合、よく起こるのがぶどう膜炎です。
痛みによりパチパチするようになったり、眼の奥が白っぽく変化するようになります。
肝臓に肉芽腫が発生した場合には、肝臓の細胞が壊され、黄疸がでます。
黄疸になると肌や白眼が黄色くなるため、ご家族にもわかりやすいです。
また脳に肉芽腫ができた場合は、痙攣発作や起立困難などの神経症状が出る事もあります。

治療

FIPはかつて致死率100%と言われる不治の病でした。
治療薬は存在せず、炎症を抑える薬や別のウイルスに対して作用する抗ウイルス薬などを使用していました。
これは、対症療法で体が衰弱することによる2次的な感染症を防ぐことで猫自身の自然治癒力に頼った治療でした。

しかし近年、いくつかの薬が開発されています。
海外で作られた薬でFIPの治療に使われて効果があると言われるものには以下のようなものがあります。

  • GS441524
  • モルヌピラビル
  • レムデシビル

これらは抗ウイルス薬で、ウイルスに対し直接作用し増殖を抑える薬です。
そのため、治療としてより効果的です。

しかし、モルヌピラビル以外は日本国内で動物用医薬品として承認されているものはありません。
動物病院が個人で海外から輸入し、ご家族の同意のもと使用しています。
まだこれらの薬は研究段階ではありますが、実際に効果がある症例も多数報告されています。

当院の猫、ホタテくんに行った治療

それでは、当院で暮らしているホタテくんのFIP治療についてお話ししていきます。

ホタテくんは雑種の去勢手術済みの男の子です。
FIPを発症したのは生後9ヶ月の時で、その時の症状は、元気食欲の低下でした。
血液検査を行ったところSAAという項目が高い値でした。
これは猫が何らかの原因で急性炎症を起こしていることを示しています。
そのため、画像検査を行うと、腹水が溜まっていました。
腹水を一部抜いて、遺伝子検査を行ったところFIPである可能性が非常に高いと診断されました。

腹水が溜まっている様子

ホタテくんの治療はモルヌピラビルの飲み薬を使用しました。

治療反応は良好で、症状が落ち着いてから徐々に内服薬の量を減らして治療終了しました。
それから8ヶ月ほど経った現在も再発することなく元気で過ごしています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は当院で治療した症例も踏まえてFIPについて解説いたしました。
FIPはかつて子猫が突然弱って亡くなってしまう恐ろしい病気でしたが、現在はいくつかの方法で治療することが可能です。
今回行ったモルヌピラビルの治療以外にも当院ではレムデシビルの注射薬やGS441524などを輸入して治療を行えるようにしています。
FIPは初期症状がはっきりせず、重症化しやすい病気です。
愛猫の健康について少しでも不安なことがあればぜひ当院までご相談ください。

診察案内はこちら
当院のLINE公式アカウントから簡単に予約が可能です

兵庫県神戸市の動物病院
リバティ神戸動物病院

pagetop
loading