2024/11/18
整形外科
犬の膝蓋骨内方脱臼の一例犬の膝蓋骨内方脱臼を外科的に整復した症例を解説
犬の膝蓋骨内方脱臼は小型犬に多い疾患で、飼い主さまの間ではよく「パテラ」と言われています。
「病院で膝がゆるいと言われた」
「たまに片足をあげてケンケンしている」
「パテラだけど痛がってないし、元気に走ってるから様子見ても良いよね?」
と思っている飼い主さまはいらっしゃいませんか?
この病気は命に影響を与える病気ではありませんが、運動機能の低下や将来的に違う病気を誘発する可能性があります。
今回は実際に外科手術にて膝蓋骨の脱臼を整復した症例を交えつつ、犬の膝蓋骨内方脱臼について解説いたします。
最後まで読んでいただき、「パテラとはなんだ?」「どうしたら良いんだ?」という疑問をクリアにしてくださいね。
犬の膝蓋骨脱臼とは
この病気は膝蓋骨と言う膝のお皿の骨が、大腿骨と言う太ももの骨の正常な位置から脱臼する病気です。
膝の内側に脱臼することを膝蓋骨内方脱臼といい、外側に脱臼することを膝蓋骨外方脱臼といいます。
小型犬の膝蓋骨脱臼は内方脱臼が多く、50〜93%で両側に生じます。
脱臼は先天性、発育期性、外傷性に分けられますが、外傷性は少なく、多くは幼少期に発症することから発育期性の犬が多いと言われています。
膝蓋骨脱臼の重症度
「でもうちの子は痛がらないし、かなり軽症よね?」
「この子の膝はグレード2って先生に言われたけど、それって重症なの?」
などと相談を受けることがあります。
膝蓋骨脱臼は脱臼の程度により1〜4にグレードが分けられています。
- グレード1:通常時は脱臼していないが、人の手で脱臼させることができる
- グレード2:膝の曲げ伸ばしで自然と脱臼する
- グレード3:常に脱臼しているが、人の手で元の位置に戻すことができる
- グレード4:常に脱臼しており、人の手で正常の位置に戻すことができない
注意が必要なのは、グレード3の犬でもスタスタ歩いている犬もいますし、グレード1でもたまに痛がることがあるという点です。
つまり、見た目や普段の様子からでは脱臼の重症度はわかりません。
膝蓋骨の脱臼を放置するとよくない?
膝蓋骨が脱臼した状態で生活をし続けると、どうなるのでしょうか?
時期ごとにいくつかのリスクがありますので挙げていきます。
成長期
- 大腿骨の変形
- 脛の骨である脛骨の変形
- 膝蓋骨のはまっている溝の形成不全
成長期後
- グレードの悪化
- 太ももの筋肉の萎縮
- 膝の靭帯の断裂
- 関節軟骨の損傷
これらのリスクを下げるためには、治療が必要です。
膝蓋骨内方脱臼の治療
膝蓋骨内方脱臼の根本的な治療は外科的治療のみです。
手術方法はいくつかあり、さまざまな方法を組み合わせてその症例のベストな治療を選択していきます。
主に行われている手術方法は以下の通りです。
- 滑車溝形成術
- 脛骨粗面転移術
- 外側支帯縫縮術
- 内側支帯の解離術
滑車溝形成術はもともと膝蓋骨がはまっている滑車溝という溝を深くする手術です。
溝を深くすることによって膝蓋骨が脱臼しづらくなります。
脛骨粗面転移術とは脛骨粗面という膝蓋骨の靭帯が付着している場所を外側に移動させる手術です。
外側に移動させることにより内側にかかる力を極力少なくできます。
外側支帯包縫縮術とは関節包という関節を包んでいる膜を、膝蓋骨が脱臼していない方に縫い縮めることをいいます。
これにより外側に力がかかり、内側に脱臼することを抑制します。
内側支帯の解離術は縫工筋や内側広筋といった太ももの筋肉を切断することにより、内側にかかる力を緩めることを目的に行います。
膝蓋骨内方脱臼はどの症例も手術が必要?
ここまで膝蓋骨脱臼の重症度や手術を解説してきました。
実際どのグレードでも手術が必要なのか、飼い主さまとしては気になるところではないでしょうか?
基本的な手術の適応は以下の通りです。
- グレード1:経過観察
- グレード2:
症状がない場合:経過観察
症状がある場合:外科療法 - グレード3、4:外科療法
治療は家の子のグレードや症状に合わせて、獣医師と一緒に考えていきましょう。
実際の症例
今回ご紹介するのは2歳の去勢済みのチワワです。
一歳のころから脱臼を指摘されており、2ヶ月前に痛みで震えていたとのことで手術の相談で来院されました。
来院時の身体検査では右がグレード3、左がグレード1でした。
レントゲン検査では、右側の膝蓋骨が脱臼していることが確認されました。
股関節や前十字靭帯などの後ろ足の他の関節疾患は問題ないことから、今回の症状は膝蓋骨内方脱臼が原因と診断しました。
右側の膝蓋骨内方脱臼はグレード3かつ症状も認められているため、飼い主様と相談し外科的治療を実施しました。
実施した手術方法は
- 内側支帯の解離術
- 滑車溝造溝術
- 外側支帯縫縮術
です。
手術後は手術前に見られた痛みもなく、経過も良好です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は小型犬に多い膝蓋骨内方脱臼について解説しました。
膝蓋骨内方脱臼は小型犬が人気な日本では日常的に聞く病気です。
そのため、ネットやSNSなどで多くの情報が出ています。
怖いことが書いてある場合もあり、不安な方もいらっしゃると思います。
まずは動物病院で膝をしっかりと触ってもらい、正しい診断とお家の子にあった治療を見つけましょう。
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