症例紹介

Case

2024/11/11

腫瘍科

猫の脾臓肥満細胞腫の一例猫の内臓の肥満細胞腫は気づきにくい?

肥満細胞腫とは猫の全腫瘍の2〜15%を占める一般的な腫瘍で、肥満細胞が腫瘍化したものです。
猫の皮膚にできる肥満細胞種は良性腫瘍の傾向が強いとされていますが、内臓の肥満細胞腫は皮膚の肥満細胞腫と性質が異なるため注意が必要です。

今回は猫の内臓の肥満細胞腫の中でも、脾臓の肥満細胞腫について実際の症例を交えながら解説していきます。
特に中高齢の猫ちゃんの飼い主さまには最後まで読んでいただき、「念のために病院で診てもらおうかな」というきっかけになれば幸いです。

猫の肥満細胞腫とは

肥満細胞腫はその細胞内にヒスタミンやヘパリンなどの顆粒を含み、その顆粒が細胞から放出されると

  • 皮膚の赤みや痒み
  • 浮腫
  • 嘔吐や胃潰瘍
  • 血圧の低下

などを起こします。
猫の肥満細胞腫は皮膚型と内臓型に分かれます。

皮膚型

猫の肥満細胞腫は2〜4番目に多い皮膚腫瘍と言われています。
頭頸部での発生が多く、特にシャム猫で好発します。
ピンク〜やや赤いイボ状や結節状の病変として確認され、80〜90%は良性の傾向を示します。
しかし、10%前後は悪性腫瘍のように転移を起こします。

内臓型

猫の内臓の肥満細胞腫は、脾臓や肝臓、消化管で見られ、その中でも特に脾臓での発生が多いとされています。
内臓型の肥満細胞腫の約30%の症例は腹水や胸水が見られ、約20%の症例は骨髄まで浸潤するという報告があります。

猫の内臓にできる肥満細胞腫は注意が必要?

猫の内臓にできる肥満細胞腫は皮膚の肥満細胞腫とは違い、診断時には既に他の臓器に転移していることが多いとされています。
脾臓の肥満細胞腫の転移は以下の器官が多いと言われています。

  • 肝臓
  • お腹の中のリンパ節
  • 骨髄
  • 皮膚
  • 消化管

皮膚の肥満細胞腫は外科手術により完全に摘出することができれば、根治することが可能です。
そのため、皮膚の肥満細胞腫はそれ自体が原因で亡くなる確率は低いと言われています。
しかし内臓の肥満細胞腫を発症した症例では、肥満細胞腫が原因で死亡した症例が66%と高いです。
これらのことから、内臓の肥満細胞腫は皮膚と比べて注意が必要であると言えます。

内臓の肥満細胞腫の早期発見が難しい理由

内臓の肥満細胞腫は発見が遅れることが多々あります。

1つ目の理由として、皮膚の肥満細胞腫とは異なり腫瘍の存在を確認することができないことが挙げられます。
内臓の腫瘍はお腹の中で発生するため、見た目ではその存在を確認しづらくお家での発見は困難です。
病院でも確認にはレントゲンや超音波の検査が必要です。

2つ目の理由は、症状が分かりにくいことが挙げられます。
内臓の肥満細胞腫で見られる症状には、

  • 体重減少
  • 元気、食欲の低下
  • 嘔吐や下痢

などがあります。
しかしこれらの症状は、日常でよく見られる胃腸炎でもよく見られます。

以上のことから、内臓の肥満細胞腫は発見が遅れることがあります。

治療方法

脾臓の肥満細胞腫の治療方法には外科治療、内科治療があります。

外科治療

外科治療は脾臓摘出を行います。
他の臓器に転移のある症例でも、脾臓の摘出は有効とされています。
外科治療をせず抗がん剤や内科治療を行なった場合と外科治療により脾臓摘出を行なった場合では、既に転移のある症例でも外科治療を行なった方が生存期間が伸びたという報告もあります。

内科治療

内科治療は抗がん剤治療や、近年発売された分子標的薬の使用が一般的です。
抗がん剤治療ではCCNU(ロムスチン)が使用されます。
分子標的薬はイマチニブやトセラニブが使用されます。
その他にはステロイドであるプレドニゾロンがあり、肥満細胞腫の治療では積極的に使います。
また肥満細胞腫が細胞内に持っている、ヒスタミンなどによる症状を抑えるために、H1、H2ブロッカーという薬剤を使用します。

実際の症例

今回ご紹介するのは、9歳の避妊済みの雑種猫です。

軟便が続いており、他院を受診したところ、各種検査で出血時に血を止める作用のある血小板の数値の低下、お腹のリンパ節の腫れ、腹水が溜まっていると指摘されました。
しかしその病院では治療が難しいと言われたため、当院に来院されました。
当院でも血液検査、レントゲン検査、お腹の超音波検査を実施しました。
他院でも指摘された異常に加え、貧血や脾臓の形態の異常が認められました。

肥満細胞腫の脾臓のレントゲン画像

脾臓の肥満細胞腫のエコー画像

腹水検査も実施しましたが、明らかな腫瘍細胞は確認できませんでした。
脾臓の異常が、今回の症状を引き起こしている可能性が非常に高いと判断し、ご家族と相談の上、輸血をしながら脾臓の摘出を行いました。

摘出した肥満細胞腫の腫瘍

摘出した腫瘍で病理検査を行なったところ、肥満細胞腫という結果でした。
同時に肥満細胞腫の転移が多い臓器である肝臓も一部採取し検査をしたところ、転移が認められました。
分子標的薬が効くタイプの肥満細胞腫であったため、術後はトセラニブを使用しました。
同時にH1ブロッカーも使用しています。
術後1週間が経過した時点で貧血は改善され(21→29%)、軟便も改善し、一般状態は良好に保てています。

まとめ

今回は猫の内臓の肥満細胞腫について解説しました。

内臓にできる腫瘍は気づくことが遅れる傾向にあります。
肥満細胞腫も例外ではなく、今回の症例も特別な症状ではなく軟便を理由に病院を受診しています。
肥満細胞腫はその細胞内にヒスタミンなどを含んでいることから、急な低血圧性のショック症状を引き起こすこともあります。
特に中高齢の猫で元気や食欲の低下、嘔吐、軟便が続く場合は腫瘍の可能性も考えて一度病院にご相談ください。

当院は一般的な診察はもちろんですが、特に腫瘍科に力を入れている病院です。
他院で治らない消化器症状なども、ぜひ一度当院までご相談ください。

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