2024/9/25
腫瘍科
犬の血管肉腫の一例肝臓の血管肉腫を外科手術で摘出した症例
高齢の犬がおうちにいる飼い主様にとって、悪性度の高い腫瘍いわゆる「がん」というものは最も恐れていることの一つですよね。
血管肉腫は、悪性腫瘍のなかでも珍しいものではありません。
比較的身近に存在する悪性腫瘍である血管肉腫とはどのようなものなのでしょうか。
今回の記事では、犬の血管肉腫について解説します。
高齢の犬がおうちにいる方はぜひ記事を最後までお読みいただき、血管肉腫について詳しく知っておきましょう。
血管肉腫とは
血管肉腫とは、腫瘍の一つです。
腫瘍というのは細胞が、分裂の過程でエラーを起こし、増殖の制御ができなくなることで発生します。血管肉腫の場合は、血管を構成する血管内皮細胞が腫瘍化し、際限なく増殖したものです。
血管肉腫は悪性度が高い腫瘍です。
つまり他の臓器へ転移しやすく、大きくなるスピードも速いということですね。
血管肉腫は、脾臓というお腹の中の臓器に発生することが多く、心臓や皮膚に発生することもあります。
脾臓に発生した場合は特に、80%の症例で肝臓に転移すると言われています。
中齢からの発症が多く、犬種はゴールデン・レトリバーやジャーマン・シェパードなどの大型犬が好発犬種です。
血管肉腫の症状
血管肉腫の症状は、発症部位によって異なります。
皮膚に発症した場合は、小さな赤いできものができて、それに気がついた飼い主様が受診されることが多いです。
一方で脾臓や肝臓に発症した場合、腫瘍が小さいうちはなかなか症状として現れにくいです。
- なんとなく元気がな
- 最近痩せてきた
- 食欲が落ちてきている
などのはっきりしない症状が出ます。
腫瘍が大きくなって破裂すると、お腹の中や心臓を包む袋の中で大量に出血します。
これは血管肉腫の特徴として、血管が豊富で腫瘍の中に血液を多く含むためですね。
体の中で大量の出血が起こると、貧血や血圧の低下により急にぐったりしたり、心臓の動きが悪くなって最悪の場合死亡してしまうこともあります。
血管肉腫の診断
血管肉腫の確定診断は、腫瘍を切除して組織を見る病理検査で行います。
腫瘍を切除するのには、全身麻酔が必要になります。そのため、腫瘍の発見時に犬がぐったりしていたり、他の病気を併発している場合は、診断のためだけに手術を行うことはあまりありません。
そのような場合には、腫瘍の発生している部位をレントゲン検査や超音波検査などで観察し、腫瘍の種類を予測して治療も兼ねた手術を行います。
血管肉腫の治療
血管肉腫の治療は大きく二つに分けられます。
外科療法
血管肉腫の治療の第一選択は外科手術です。
外科手術を行う場合、完全に腫瘍細胞を取り除くことが非常に重要です。
正常に見える部分にも腫瘍細胞が浸潤している場合もあるので、肝臓に発生している場合は肝臓の肝葉ごと、脾臓に発生している場合には脾臓ごと切除します
外科手術で完全に腫瘍細胞を取り除くことができれば、手術のみで治療が終了になる場合も多いです。
血管肉腫は、発見時に破裂していて犬の全身状態が良くない場合も多いため、麻酔リスクがデメリットとなります。
内科療法
転移が確認されていたり、腫瘍が完全に切除できない場合にはドキソルビシンという抗がん剤を使用する場合もあります。
この抗がん剤は古くから血管肉腫の術後に使用されることが多いです。
比較的副作用の多い種類の抗がん剤なので、使用する際は注意が必要です。
血管肉腫の実際の症例
今回ご紹介する症例は、6歳の女の子のゴールデンレトリバーです。
いつもに比べて元気食欲が低下しているとのことで当院に来院されました。
レントゲン検査と超音波検査でお腹の検査を行うと、肝臓に大きな腫瘍が認められました。
この腫瘍が、症状に大きく関係していることが予測されたので、ご家族と相談し、外科手術で腫瘍を切除することとなりました。
腫瘍は肝臓の外側左葉という部分に発生していたので、肝臓のその部分ごと腫瘍を切除しました。
手術で摘出した腫瘍で病理組織検査を行ったところ、血管肉腫と診断されました。
術後元気食欲も回復して、経過は良好です。
現在はサプリメントを服用しながら、転移・再発しないかどうか慎重に見守っています。
まとめ
今回は血管肉腫について解説いたしました。
犬の血管肉腫は発見が遅れると、命に関わる恐ろしい腫瘍のひとつです。
今回ご紹介した症例は、ご家族が犬の体調変化に気がついて早めにご相談して下さったことが、良い結果に繋がりました。
特に中高齢の大型犬を飼っている方は、定期的に健康診断を行い早期発見・早期治療を目指しましょう。
当院では、腫瘍科に力を入れております。おうちの犬に心配なことがあれば、ぜひ早めに当院へご相談ください。
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