2024/9/16
整形外科
犬の前十字靭帯断裂の一例犬が後ろ足を引きずっている?
「犬が後ろ足をかばうような歩き方をしているけど大丈夫?」
このようなお悩みを持つ飼い主様もいるのではないでしょうか?
犬で多い整形外科疾患の1つに前十字靭帯断裂が挙げられます。
人ではスポーツでの怪我のイメージが強いですが、犬では日常的なダメージの蓄積によって起こることが多いです。
今回の記事では犬の前十字靭帯断裂について解説します。
症状に心当たりのある方はぜひ参考にしてみてください。
犬の前十字靭帯断裂とは?
前十字靭帯とは膝の関節にある靭帯で、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぎとめています。
靭帯が弱くなったり、急な力が加わったりすると前十字靭帯が切れてしまうことがあります。
好発犬種は
- ラブラドールレトリバー
- ゴールデンレトリバー
- ボーダーコリー
などの大型犬や
- トイプードル
- チワワ
などの小型犬です。
完全に靭帯が切れてしまう「完全断裂」と部分的に靭帯が切れてしまう「部分断裂」に分けられます。
前十字靭帯断裂の原因
ほとんどは日常生活の中でダメージが蓄積し、靭帯が変性することで発症すると言われています。
怪我による急性の断裂は稀です。
慢性的な前十字靭帯断裂を引き起こす要因としては
- 肥満による膝への負荷
- 加齢による靭帯の変性
- 膝蓋骨脱臼
- ホルモンの疾患
- 滑りやすい床などの不適切な環境
が考えられています。
急性の前十字靭帯断裂は激しい運動や交通事故など強い衝撃が原因になることが多いです。
前十字靭帯断裂の症状
前十字靭帯断裂の症状には以下のものが挙げられます。
痛み
靭帯が切れてしまった直後は激しい痛みを示し、足を着地できなくなってしまいます。
3〜7日くらい安静にしていると痛みが収まることが多いです。
体重が軽い小型犬では自然と症状が収まることもありますが、体重の重い大型犬では多くの場合で痛みが再発してしまいます。
完全断裂の場合、痛みが引かずに関節が不可逆的に変形してしまうこともあります。
歩様の異常
靭帯の断裂が起こると後ろ足が踏ん張れずに何となく変な歩き方になることが多いです。
さらに3本足で歩いたり引きずったりするなどの症状も現れます。
症状が長引くと靭帯が断裂した側の足の筋肉が萎縮することで筋肉量に左右差が出てきます。
座り方の異常
座り方の異常も特徴的な症状です。
片方の後ろ足を横に流すような左右非対称な座り方をすることがあります。
前十字靭帯断裂の診断
症状や歩様から前十字靭帯断裂が疑わしい場合は触診、レントゲン検査に進みます。
他の整形疾患についても確認が必要です。
触診
病変の疑われる足を触診し、痛みや違和感を検査します。
前十字靭帯断裂の検査では脛骨前方引き出し試験や脛骨圧迫試験という特殊な検査を行います。
その際に半月板の損傷がないかも確認が必要です。
力が入ってしまうと正確に診断できないため、鎮静をかけて検査することもあります。
レントゲン検査
レントゲン検査では膝関節のズレや関節炎の有無について確認します。
前十字靭帯断裂では脛骨が前方に変位することが特徴です。
前十字靭帯断裂の治療
症状が顕著である場合は外科手術による積極的な治療が必要です。
症状が軽い場合や手術が難しい場合は内科的な治療を選択することもあります。
内科療法
体重の軽い小型犬の場合や持病の影響で麻酔がかけられない場合は安静にして内科療法を行うこともあります。
おもな治療は
- 鎮痛薬での痛みの管理
- 歩きやすい環境の整備
- 体重管理による膝の負担の軽減
です。
根本的な治療ではなく現状維持を目指していくため、関節炎には注意が必要です。
外科手術
内科療法で改善の見られない犬や大型犬では手術によって膝関節を安定化させます。
手術方法はそれぞれの犬の状態によってさまざまです。
当院では人工材料を用いて大腿骨と脛骨を安定化させる関節外法を行っています。
正常に歩行できるようになるまでは術後のリハビリが必要です。
前十字靭帯断裂の予防法
犬の前十字靭帯断裂のほとんどが膝への負担の蓄積による慢性的な断裂です。
前十字靭帯断裂を経験した犬ではもう片足も前十字靭帯断裂してしまうこともあります。
前十字靭帯断裂を未然に防ぐためには体重管理と環境整備が必要です。
体重管理
体重の増加により膝へのダメージが蓄積してしまうと、前十字靭帯断裂だけでなく関節炎のリスクが高まります。
特に大型犬では体重による膝への負担が大きいです。
再度手術することにならないように術後のリハビリと合わせてダイエットをすることが多いです。
環境整備
床がフローリングなどの滑りやすい素材だと膝に負担がかかります。
カーペットやフロアマットを敷くなど工夫しましょう。
実際の症例
当院で手術した症例を紹介します。
症例は避妊済みの6歳4か月齢のMIX犬です。
走り回っていたところ、キャンと鳴いて急に左後肢を上げることを主訴に来院されました。
症状から整形疾患を疑い、レントゲン検査で前十字靭帯断裂と診断しました。
下の写真が来院時のレントゲン画像です。
左側で前十字靭帯が断裂しており、脛骨が前方に変位しています。
この症例では前十字靭帯断裂に対して関節外法と呼ばれる外科手術を行いました。
下の写真が術後のレントゲン画像です。
脛骨が正常な位置に戻っています。
術後1か月後には負重が弱いものの足を着地できるようになり、歩行も可能になりました。
今後リハビリを継続し、半年ほどかけて元通りに歩行可能になることを目指しています。
まとめ
前十字靭帯断裂は体重管理と環境整備によって未然に防ぐことが大切です。後ろ足を引きずるような症状がみられた場合は早めに治療を行うことでリハビリの期間も短くすることができます。
当院では前十字靭帯断裂をはじめ、犬の整形外科疾患に対する外科手術を積極的に行っております。
犬の整形疾患にお困りの方はぜひ当院までご相談ください。
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