症例紹介

Case

2024/8/27

泌尿器/生殖器科

犬の非定型アジソン病(副腎皮質機能低下症)の一例犬がショック症状を起こす病気

「犬の下痢や嘔吐がなかなか治らない」
「犬が外出の後に体調を崩しやすいけど、何かの病気なの?」
「動物病院に行って血液検査をしたら低血糖と言われた」
このような悩みを持つ飼い主様はいるのではないでしょうか。
もしかすると、それはアジソン病というホルモン分泌が低下する病気かもしれません。

今回は犬のアジソン病の中でも、特に診断が難しいとされる非定型アジソン病について、実際の症例を交えながら解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、非定型アジソン病について理解を深め、病気の見逃しを防ぎましょう。

犬のアジソン病とは

アジソン病は、犬の副腎皮質から分泌されるホルモンが不足することで引き起こされる内分泌疾患です。副腎皮質の機能が低下することから副腎皮質機能低下症とも呼ばれますね。おもに副腎皮質から分泌されるホルモンには体の代謝や血圧の維持に重要なグルココルチコイド(コルチゾール)や、体の電解質や水分量を調節するミネラルコルチコイド(アルドステロン)などがあります。

一般的なアジソン病ではこれらのホルモンの分泌がともに低下しますが、グルココルチコイドだけが低下する場合は非定型型アジソン病と言います。

犬の非定型アジソン病とは

非定型アジソン病は、グルココルチコイドのみが欠乏し、ミネラルコルチコイドの分泌は正常に保たれる状態です。通常のアジソン病と異なり、特徴的な電解質異常(低ナトリウム血症、高カリウム血症)が見られないため、診断が困難な場合があります。

非定型アジソン病の症状

犬の非定型アジソン病はグルココルチコイドの欠乏により以下のような症状を引き起こします。

  • 元気・食欲の低下
  • 嘔吐・下痢
  • 体重減少
  • 脱力感や筋力低下
  • 震え(特に後肢)
  • ストレスに弱くなる(環境変化で症状悪化)

特徴的な症状がなく、他の疾患と似ているため、獣医師による詳細な検査と診断が重要です。

非定型アジソン病は重症化すると低血糖や低血圧によるショック症状を引き起こす場合があります。アジソン病によるショックのことをアジソンクリーゼとも言いますね。アジソンクリーゼは命に関わる場合もあるので注意が必要です。

非定型アジソン病の原因となりやすい犬種は?

非定型アジソン病の正確な原因は完全には解明されていませんが、おもに自己免疫疾患によって副腎皮質が破壊されることで発症すると考えられています。遺伝的要因も関与している可能性が指摘されており、特定の犬種で発症リスクが高くなる傾向があります。

非定型アジソン病の好発犬種は以下の通りです。

  • パピヨン
  • プードル
  • ラブラドール・レトリーバー

上記の犬種以外でも発症する可能性があるので注意しましょう。

非定型アジソン病は中年(平均7歳程度)のメス犬に多く見られる傾向があります。まれにクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の治療薬により、医原性に発症することもあります。

非定型アジソン病の診断

非定型アジソン病の診断には、複数の検査が必要です。

  • 血液検査

低アルブミン血症、低血糖、低コレステロール血症などが認められることがあります。

  • ACTH刺激試験

非定型アジソン病診断の決め手となる検査です。コルチゾール分泌を刺激するACTHという薬剤を投与し、投与前後の血中コルチゾール濃度を測定します。

  • 腹部超音波検査

副腎のサイズを確認します。非定型アジソン病では副腎が萎縮していることが多いです。

これらの検査結果を総合的に判断し、非定型アジソン病の診断を行います。特にACTH刺激試験は、ACTH投与後の血中コルチゾール濃度が基準値未満であれば、アジソン病と診断されます。非定型アジソン病は電解質異常を伴わないため、診断が難しい場合がありますが、症状や他の検査結果から疑われる場合は、積極的にACTH刺激試験を実施することが重要です。

犬の非定型アジソン病の治療

非定型アジソン病の治療は、不足しているホルモン(グルココルチコイド)の補充です。非定型アジソン病の治療の注意点は以下の通りです。

  • 投薬は生涯継続が必要(副腎機能の回復は期待できない)
  • ストレス時(手術、旅行など)は投薬量の増量が必要
  • 定期的な血液検査による経過観察が重要
  • 過度のストレスを避け、安定した生活環境の維持が重要

適切な治療により、多くの犬は良好な予後が期待できます。ただし、約10%の症例では後に電解質異常を伴う典型的なアジソン病に移行する可能性があるため、定期的な検診が重要です。

非定型アジソン病によりショックを起こした実際の症例

ここでは当院で実際に非定型アジソン病と診断し、治療した犬の症例を紹介します。

症例は去勢済みの10歳のトイプードルです。
食欲不振や尿失禁、フラフラしてけいれんが起きたという主訴で来院されました。
来院時は意識は正常でしたが、ややぼうっとしているような様子でした。
血液検査では、

  • 低血糖
  • アルブミンの低値
  • 肝数値の上昇

などを認めましたが、電解質の異常はありませんでした。
レントゲン検査では通常に比べ、後大静脈が細くなっていました。これはショックによる血液循環の悪化が原因と考えられます。

アジソン病のレントゲン画像

腹部超音波検査では副腎の軽度萎縮が見られたため、非定型アジソン病の可能性を考えACTH刺激試験を実施したところ、ATCH投与前後でコルチゾールが低値でした。

アジソン病の超音波検査画像

これらの検査から非定型アジソン病による低血糖とショック症状と診断し、入院下で点滴をしながらグルコースと抗けいれん薬の投与を行い、ステロイド(グルココルチコイド)の補充を行いました。

数日後には血糖値やアルブミン値の改善を認め、元気や食欲も戻ったため退院となりました。

現在はステロイドの投与を続けながら、定期的に通院してもらい検診を行っています。

まとめ

犬の非定型アジソン病は診断が難しく、病気の発見が遅れやすいです。
しかし、症状が悪化すると今回の症例のようにショック症状や低血糖を起こす危険な病気です。

犬が長期間にわたり下痢や嘔吐をしているなどの症状はアジソン病かもしれません。
気になることや心配事があれば、お早めに当院までご相談ください。

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