症例紹介

Case

2024/7/19

循環器/呼吸器科

犬の心タンポナーデの一例犬の突然のふらつきは心タンポナーデかも?

「犬が突然ふらついて立てなくなった」

このようなことを聞くと、犬の飼い主様は椎間板ヘルニアなどの神経疾患を思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、神経疾患以外でもふらつきを起こす場合があります。

今回はその中でも、犬に突然のふらつきを起こし、早急に対処が必要になる犬の心タンポナーデについて

  • 心タンポナーデの原因
  • 心タンポナーデの症状
  • 治療
  • 心タンポナーデの実際の症例

に分けて詳しく解説します。

ぜひ最後までお読みいただき、飼い犬の健康管理にお役立てください。

犬の心タンポナーデとは?

正常な心臓と心タンポナーデの心臓の比較

犬の心臓は心膜と呼ばれる薄い膜に覆われています。心膜と心臓の間には心膜液(心囊水)と言う液体が存在しており、心臓が動く際の潤滑油の役割を果たしています。

しかし、何らかの要因で過剰に心囊水が貯留すると、心臓の動きが障害されます。このように心囊水の貯留によって心臓の動きが障害された状態を心タンポナーデと言います。

心タンポナーデは心臓が十分に拡張できなくなり、血液を効果的に全身へ送り出せなくなるため、重篤な循環障害を引き起こす可能性がある緊急性の高い状態です。

診断したらすぐに対処をしないと命の危険性があるということですね。

心タンポナーデの原因

犬の心タンポナーデの代表的な原因には以下のものが挙げられます。

  • 心臓腫瘍
  • 特発性心膜液貯留
  • 弁膜症に伴う左心房破裂
  • 血液凝固異常
  • 外傷

犬の心タンポナーデはこの中でも、原因の半数以上が心臓腫瘍と言われており、特に血管肉腫という心臓腫瘍が心タンポナーデの原因になることが多いです。血管肉腫は脾臓にも好発するため、脾臓に腫瘍を見つけたら心臓にも腫瘍ができていないか確認することが重要です。

また原因に関わらず、ゴールデンレトリーバーなどのレトリーバー種は心タンポナーデの好発犬種と言われています。

高齢の犬は腫瘍の発生が多いので、心タンポナーデにも注意が必要ですね。

心タンポナーデの症状

心囊水貯留が軽度な場合は症状が出ないこともありますが、心囊水貯留が進み、心タンポナーデを起こすと以下のような症状が現れます。

  • 突然のふらつき
  • 立てない、歩けない
  • 元気消失
  • 呼吸困難
  • 粘膜蒼白
  • 虚脱(ショック状態)

また、これらの症状に先行して嘔吐が見られる場合もあります。

嘔吐に続いて上記のような症状が見られたらすぐに動物病院を受診しましょう。

治療

心タンポナーデの治療は、原因と重症度によって異なりますが、一般的には以下のような方法が取られます。

心膜穿刺

肋骨の間から細い針を刺し、心囊水を抜去します。心囊水による心臓の圧迫が解除されることで心タンポナーデの状態が改善するので、心タンポナーデを起こしている場合は最優先で行われます。

腫瘍などが原因の場合は心膜穿刺を行い心囊水を抜去しても、再び心タンポナーデを引き起こす可能性があるので、心膜穿刺を繰り返し行う必要があります。

心膜切除

再発を繰り返す場合などでは、心膜の一部または全部を取り除く手術を行うことがあります。

ただし、心囊水を産生する原因を除去しているわけではないので、産生された心囊水は胸腔に貯留します。

胸腔に溜まった貯留液は胸水と呼ばれます。胸水も一定量貯留すると呼吸困難を引き起こすことがあるので、抜去が必要になりますが、心膜切除はQOLの改善を目的とした治療として選択されます。

原因疾患の治療

心タンポナーデを起こした原因を治療することで、心囊水の産生を抑制できることがあります。

例えば、腫瘍の場合は外科的切除や化学療法が適応になるケースがあります。

心不全による心タンポナーデでは心不全治療を強化することで、心タンポナーデの発生を防ぎます。

心タンポナーデの実際の症例

ここからは犬の心タンポナーデの実際の症例をご紹介していきます。

症例は去勢済みの14歳11ヶ月齢の柴犬で、ふらつきと起立困難が前日から見られるとのことでした。

レントゲン検査では心臓の陰影の拡大があり、心臓超音波検査で心囊水の貯留が見られ、心臓の動きが障害されていることも分かったため、心タンポナーデと診断しました。

心タンポナーデのレントゲン画像

心タンポナーデの超音波画像

心タンポナーデの状態から改善させるために心膜穿刺を実施すると、ふらつきなどの症状は回復していきました。

この症例では、診断と治療をかねて全身麻酔下で心膜切除を実施しました。下の写真が心膜切除を行ったあとの術中写真です。

心膜切除後の経過は良好で、2週間経過した時点では胸水貯留はありませんでした。

この症例では切除した心膜を病理組織学的検査に提出し、「中皮腫」と診断されました。

手術後は飼い主様と相談の上、抗がん剤治療は行っていませんが、一般状態もよく元気に過ごしています。

まとめ

犬の心タンポナーデは適切な診断と治療が行われれば、良好な経過をたどることも多いです。
しかし、進行が早く、重篤化する可能性もあるため、早期発見・早期治療が鍵となります。

飼い犬にふらつきや元気消失などの症状が現れたら、心タンポナーデの可能性も考える必要があります。
特に高齢の犬では定期的な健康チェックが重要です。

飼い犬の健康に不安を感じたら、お気軽に当院までご相談ください。

 

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