症例紹介

Case

2024/6/18

泌尿器/生殖器科

猫の子宮蓄膿症の一例若くても油断できない?子宮卵巣摘出により回復した症例

子宮蓄膿症とは子宮に膿が溜まる病気で、猫は犬よりも発症率が低いと言われています。

猫は交尾による刺激で排卵をする交尾排卵動物ですので、生理のような出血はありません。
そのため、陰部から出血や膿のような液体が出ている場合は子宮のトラブルが起きている可能性があります。

今回は猫の子宮蓄膿症について実際の症例を交えつつ、解説していきます。

子宮蓄膿症の原因

子宮蓄膿症は細菌感染で起こります。
その菌の多くは大腸菌であることが分かっています。

猫は自然排卵をしない動物ですが、なんらかの原因により排卵し、黄体期(受精卵が子宮に着床する時期)に入ります。
黄体期には黄体ホルモンの作用により、子宮の入り口がいつもより開き、子宮内膜が厚くなります。
また黄体ホルモンにより、子宮の収縮を抑制する作用もあります。
これらは精子を受け入れ、受精卵を子宮内で着床させ、妊娠を維持するには適切です。
しかし細菌の侵入もしやすく、子宮内膜が厚くなることや子宮の収縮も低下するため、感染を起こした場合は悪化の原因となります。

症状

症状は

  • 陰部からの膿が出る
  • 食欲不振
  • 子宮が腫れることによる下腹部の腫れ
  • 元気の低下

などが挙げられます。
陰部からの膿が出ると、わかりやすい指標になりますが、膿が出ない場合もあるため注意が必要です。

検査方法

検査は血液検査、レントゲン検査、超音波検査、陰部からの分泌液があれば、分泌物の性状検査を行います。
体内で感染が起こっていますので、発熱や呼吸が早いなども指標になります。
血液検査では白血球の上昇や炎症マーカーの上昇が認められることがあります。
レントゲン検査では大きく発達した子宮などが確認できます。
超音波検査では張った子宮や子宮の内部に液体が溜まっているかを確認します。
分泌物の性状検査で菌を確認することができれば、子宮の内部の液体が膿の可能性が高いと診断できます。

子宮蓄膿症の治療

子宮蓄膿症の治療は完治や再発防止の観点から、外科治療が推奨されます。

外科手術では、膿が溜まった子宮と卵巣を摘出します。
原因となっているものを取り除くことが可能ですので、完治が可能です。
感染を起こす場所を摘出するため、子宮蓄膿症の再発防止にもなります。

麻酔を実施できないほど猫の状態が悪い場合は、全身状態を良くするために内科治療を行います。

実際の症例

11ヶ月齢のスコティッシュフォールドが、
「元気、食欲の低下と、お尻に血と膿がついている」
という主訴で来院されました。

詳しくお話しを聞いたところ、
「3日ほど前から元気食欲が低下し、2週間ほど前に発情兆候が見られた。」
とのことでした。

身体検査では40.0度の発熱、軽度の脱水が認められました。
陰部は血の跡はあるものの、膿は舐めとっており確認できませんでした。
検査は血液検査、レントゲン検査、超音波検査を実施しました。
血液検査は炎症マーカーであるSAAが高値であり、腹部の超音波検査では大きく張った子宮と、子宮内部の液体を確認しました。

検査により手術は安全に実施できると判断し、点滴、抗生物質の投与をしつつ、手術を行いました。

摘出した子宮には、超音波で確認された通り、内部に膿が溜まっていました。

膿で細菌培養検査を行なったところ、大腸菌が検出されました。

子宮は病理検査にも提出し、慢性化膿性子宮内膜炎、卵巣の黄体形成と診断されました。

まとめ

子宮蓄膿症は重篤になる場合もあり、命を落とすかもしれない怖い病気です。

子宮蓄膿症を発症する猫の多くは5歳以上ですが、1歳前後の若齢猫でも子宮蓄膿症を起こることがあると知られています。
子宮蓄膿症は避妊手術により、発症を未然に防ぐことのできる病気です。病気の予防の観点からも早めの避妊手術をおすすめします。

避妊手術に関してご不安な点や不明点などあればお気軽にご相談ください。

また、避妊手術をしていない猫で元気食欲がない、陰部から出血している場合は子宮蓄膿症の可能性があります。

様子を見ていると悪化する場合がありますので、早めにご相談ください。

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