症例紹介

Case

2024/5/11

循環器/呼吸器科

猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニアの一例手術により整復した症例

腹膜心膜横隔膜ヘルニアは猫の先天性の横隔膜の病気で最も一般的な病気です。
腹膜心膜横隔膜ヘルニアは肝臓や胆嚢、小腸などのお腹の中の臓器が、穴の空いた横隔膜から心膜の中に入り込み、心臓や血管を圧迫し、時には命に関わることもあります。

今回は猫の腹膜心膜横隔膜ヘルニアについて、実際の症例を交えながら解説していきます。

腹膜心膜横隔膜ヘルニアの原因

腹膜心膜横隔膜ヘルニアは横隔膜の先天的な病気の一種です。
横隔膜の病気の一つであるヘルニアは、胎児期の段階で横隔膜が一部欠損することにより起こります。
その欠損した部分により病態や名前が変わり、

  • 腹膜心膜横隔膜ヘルニア
  • 胸膜腹膜ヘルニア
  • 食道裂孔ヘルニア

に分けられます。

犬や猫では、外傷などによる後天的な腹膜心膜横隔膜ヘルニアの発生は報告がなく、先天的な病気として認識されています。

原因としては、遺伝や奇形を起こす薬剤などに触れてしまったことが挙げられます。
猫ではペルシャ、ヒマラヤン、メインクーンなどの報告があります。
腹膜心膜横隔膜ヘルニアを持つ猫は、他にも先天的な病気がないかを全身チェックする必要があります。

例えば、

  • 骨格の異常
  • 他の部位のヘルニア
  • 内臓の異常

です。

症状

腹膜心膜横隔膜ヘルニアでは無症状のことも多く、中~高齢になり他の病気の検査で偶然見つかり診断されることもあります。
症状を出す場合は心膜内に脱出した臓器や、心臓・血管への圧迫具合により様々です。
肝臓が心膜内に脱出している場合は肝臓の壊死や沈うつ、神経症状を起こす場合もあり、小腸などの消化管が出ている場合は、食後の痛みや食欲不振、嘔吐・下痢などがあります。
心臓や血管を圧迫している場合は腹水が生じることもあり、心膜が臓器でいっぱいになると、肺の広がるスペースがなくなり、疲れやすい、呼吸が早いなどの症状を出します。

検査

身体検査、レントゲン検査、超音波検査などにより総合的に診断します。
身体検査では聴診器による心音が聞こえづらくなります。
レントゲン検査では心臓の影が大きいなどの特徴的な所見を得ることができます。
超音波検査では心膜内にお腹の臓器が入り込んでいることなどを確認します。

腹膜心膜横隔膜ヘルニアの治療

根本的な治療は外科的治療のみです。
呼吸状態や痩せているなど一般状態が悪い場合や、他の先天的な病気も一緒に抱えている場合は内科治療を行う必要があります。

外科治療は、臓器同士がくっついてしまう癒着の可能性が低く、骨や筋肉、皮膚が柔軟である早期(8~16週)に実施することが望ましいとされています。
術後12~24時間の経過が順調であれば、大きな問題になることは少ないとされており、再発も稀です。
手術しない症例の中には、症状の悪化や心膜炎、小腸壊死などにより死亡したケースも報告されています。
そのため、手術の合併症や猫の年齢、今現在の症状を考えて主治医の先生とよく相談してみてください。

実際の腹膜心膜横隔膜ヘルニアの症例

6ヶ月齢のスコティッシュフォールドのオスが去勢手術の前の検査で当院に来院されました。

検査は血液検査と胸のレントゲン検査を行いました。
血液検査に大きな問題はありませんでしたが、胸のレントゲン検査で特徴的な結果が得られ、腹膜心膜横隔膜ヘルニアと診断しました。

飼い主さまにこれから起こり得る症状などをお伝えし、手術を実施することとなりました。

1週間で無事に退院し、今も元気に過ごしてくれています。

まとめ

本症例のように全く症状がなく、去勢手術の前や健康診断で偶然見つかるケースも多くあります。
近年では不妊手術の前に、レントゲン検査を実施する病院も増えましたが、画像検査を行わない病院もまだあります。
先天的な病気は血液検査はもちろん、画像検査をしないと発見できない例もあります。
若い健康な時はあまり健康診断をしないことも多いですが、不妊手術前の検査は絶好のチャンスと言えますので、しっかりと実施することをお勧めします。

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